のんべんだらり

渡る世間は推しばかり

『27 -7order-』2/15マチネ、2/16マチソワ感想

せっかくインプットしたんだからアウトプットもしなければ! ということで、心のままに感想を書きます。

あくまでただの感想なので悪しからず…。ネタバレが嫌な人は読まない方がいいと思います。

頭に浮かぶままに書くので時系列もバラバラになると思うんですが、それでも大丈夫な方だけどうぞ。

①冒頭、世界観の説明について

「いつかの時代、どこかの国」という説明で始まり、「10年前に施行されたAZ法により…」からの「27年前、俺の親父は」でいきなり頭が大混乱!!!

いや、理解はできるんだけど「おや?」と思うのは止められないというか…。いつかの時代の10年前に施行された法…? 27年前に死んだ親父の日記…?

そしてキャラの名前が大抵日本名なので、いや日本では? という気持ちがどうしても押さえられなかった。

せめて「いつかの時代」か「どこかの国」のどっちかが無ければまだよかった気がするなあと思ったり思わなかったり。

こう考えると、『北斗の拳』の「時は200x年、世界は核の炎に包まれた!」ってかなり優秀なモノローグだったんだと感心してしまった。

②ショウはカズマを愛していたのか

これによって本作の地獄度合いが格段に違うと思う。

だって今まで付き合ってたと思われる男が、ポッと出の女に掻っ攫われてしまうんですよ? まあ本気じゃなくてカズマをなだめるための行為だったって考え方もあるだろうけど…。

恋人は他人に取られるわ、ロックは規制されるわ、挙げ句の果てにカズマは死ぬわで散々な目に合って、自分も逮捕されて他の仲間の消息もわからず、それでも音楽を捨てきれなくてCDショップを20年以上細々と続けてるとかあまりにも気の毒過ぎて…。

最終的にはジャニスがお得意様になってめでたしめでたし、みたいな雰囲気になってたけど、恋敵(?)と仕事するってどんな気持ちなんだろう。

こういう時、某ジャンルだとショウとユウマの間になんらかの関係が芽生えるのがセオリーっちゃセオリーなんだけど、ユウマは恐らくヘテロだということが劇中から読み取れるのでその線もなし。

一体誰がショウの拠り所になってくれるんだろうか…あんまりにも救いがなさすぎて悲しくなってしまった…。

③カズマはどうしてジャニスを愛したのか?

母親のトラウマで女性が苦手、わかる。

そのせいで男しか愛せなくなった、わかる。

でもジャニスは平気、なぜ???

いや、ジャニスが他の女性とは一線を画した何かを持った人物なら納得できるんだけど、割と女女してない?

高い声、無邪気な笑顔、甘え上手、そして美人。ステレオタイプな女性性を保有したキャラクターだと思うんだけど…。

「俺の心に風穴を開けた」

「ジャニスジョップリンみたいにイカす女だった」

って説明だけじゃ納得できない!!!

なんでもいいの、ジメジメしたところが無い天真爛漫さが俺にとって太陽みたいだったとか、その無邪気な眼差しは女というよりまるで子どものように清らかだったとか、単純に顔が好みだったとか…自分で書いといてアレだけどなんかクサいな…。

とにかく、ちょっと女性の話題が出ただけで自身を抱きしめて震えるほど女嫌いの男に、「でもコイツは大丈夫」って言われてもいやいや待ってわからん!!と思っちゃうんだよ〜。

劇中でリフレインされる言葉はその作品にとって重要なポイントだと思うんだけど、「女嫌い」ってアイデンティティがあるキャラなんだからそこはきちんとした理由が欲しかった。

「唯一の女性」を際立たせたいがために、カズマという人間を構成する根幹があっさり揺らいでしまった感があった。

セクシュアリティは流動的なものだと思うし、だからゲイだと思ってたらバイだった!ってことが起きても不思議じゃないけど、幼少期のトラウマが27歳まで響いている人間には簡単に克服できない問題だと思うんだよ…。

「私たちが愛し合うのに時間は掛からなかった!」って高らかに言われても、「なぜ?」と思えて仕方なかった。

ラブシャワー

「俺たちこうやって音楽かけながら踊ってるんだ!」ってレベルではねえ!!!!!!

えらく本格的に踊り始めて度肝を抜かれた。顔が整ってる男たちが踊るキラキラダンスとても良かった…。

みんな上手だなあと思ったけど、やっぱりどうしても真田くんを見てしまった。何が違うんだろう、関節の使い方? 動きに明らかな華があって、全体を見ようとするんだけど自然と目が引きつけられちゃって困った。

⑤テレビの生放送

いや、犯罪の告白はここでしちゃいかんだろ!!!

「俺たち万引きを重ねてましたが、それは貧しい人にパンを分け与えるためだったんです」って言われても納得できないのと同じで、いくら音楽守りたかったとしても法を犯してるのには変わらないし、その行為を100歩譲って見逃したとしても全国生放送で言ってはいけない…なんでスタッフはカメラを止めなかったんだろ…。

過去と現在、カズマとユウマがリンクして一つの歌を歌うって構図がよかっただけに、その前の犯罪告白が後を引いて頭の片隅に疑問符が浮かびっぱなしだったのが非常にもったいなかった。

そして端の方でスコアクラブを見ながら苦しげな表情をしているヤマト、うちわの出し方があまりにも雄々しくて笑ってしまった。紋所みたいだな…。

⑥ゲンキの告白

未成年の主張感がすごい! 彼何歳…? パンフレットをまだ真面目に読んでないんだけど、高校で出会ったなら少なくとも25歳以上だよなあ…。

ユウマの「付き合えないけど愛しているよ、人として」を救いと取るか残酷さと取るか、人によって意見が分かれそうだと思った。ゲンキが幸せそうに笑ってたからいいか…。

あとどうしても気になったのが、ゲンキの松葉杖逆では…?

タケウチの時も思ったけど、全体的に杖の扱いが豪快な舞台だなあと思ってしまった。まあみんな若者だしな…。

⑦社会に疲れたヤマト

椅子に座って足組んでる様がかっこよすぎて死ぬかと思った。絵画か…?

初登場時にどこか一筋縄ではいかない感があるな〜とかぼんやり考えてたら、まさかこんな役どころだったとは!

好きなものを規制する側になったらそりゃ辛いよ…精神病んでもおかしくない…。

「俺が音楽を諦めたんだからお前も嫌いになれ」ってすごい理論だなとは思ったけど、理論もなにも心がおかしくなってるんだからそんなこと考える余裕も無いか。

そしてこれはメタ的な発言になってしまうんですが、普段は優しげで声を荒らげることも滅多にない財木さんが、怒鳴ったり物をぶちまけたり散々暴れるのを見ては毎回怯えてしまった。ギャップが恐ろしい…。

それにしても、あのシーンのユウマがことごとく残酷な発言をしていて胸が痛くなるばかりだった。

音楽を規制しなきゃいけない立場の人間に音楽と関わった思い出をまくし立てたり、「寂しいな、人間って変わっちゃうんだ」と『現在のヤマト』を切り捨てたり、最終的には「まだマブダチだと思ってるから!」という…。

私がひねくれた人間だからかもしれないけど、「音楽を愛さないお前は俺にとって必要ない、でも昔のように音楽を受け入れるのならお前はまだ友達」というニュアンスを感じてしまった。

職を失って法を犯す以外にそれを実現する方法ある???

Gは音楽OKだとしても、まさかユウマの前で披露したり話題に出すわけにもいけないしね…「お前は禁止だけど俺はできるんだぜ!」って見せつける構図になってしまう。

法を遵守する限り、ヤマトはもう二度とユウマと音楽を楽しむことはできないんだよなあ。

まあ、「そんなに心病むような仕事なんて辞めて、お前はGなんだから思う存分音楽を楽しめよ!」という前向きなメッセージかもしれないしね。これは製作陣のみぞ知るって感じかな…。

「好きだったものを嫌いになるには大嫌いになるしかない」ってのは、ユウマに対する感情も含まれてんじゃないかと思った。

どうせ切り捨てなきゃいけないんだからいっそ思いっきり傷つけて、そして自分のしたことにも思いっきり傷ついて、二度と会わないことも辞さないって覚悟だったのかなあ…。

どちらかというと、友情に固執してたのはヤマトの方な気がする。ユウマはもっとこう…カラッとしているというか…。

出番は少ない役だったけど、十分すぎるほどの存在感を放っていたと感じた。もっとユウマとヤマトの関係を深掘りしてほしかったな〜。

⑧彼らの精神年齢はいくつなのか

特に気になったのはユウマかな。なんとなく、悩みの方向性が若すぎるような気がして…。

ヤマトに「大人になれよ!」って言われた後の、「(お前の言うような定義が大人だと言うのなら、的なセリフ)、俺は子どものままでいい」とか、いや〜子どもでいいとか言う年齢ではないのでは?

大人だ子どもだと議論をするのって、あと10歳ぐらい若い段階だと思うんだよな〜せめて20代前半? 27歳って結構いい歳なんだよね。

あと、親父の幻影に強く反発するのもちょっと年齢の低さを感じた。心の奥深くに潜んだ確執というより、熱いものをうっかり冷まさずに飲んでしまった時のような反射速度の憎しみというか…。

私自身が恵まれたごく普通の家庭環境で生まれ育ったからこその違和感なのか、そうでないのかの判断が難しい。

⑨階級分けによる弊害が分かりにくい

この作品自体がスピンオフだからそう感じるのかも。

居住区が決まってる、仕事も分けられる、音楽は禁止。これが大変なことだってのはわかる。

でもそれによる生活の格差とかが見え辛い。食べるものにも困ってなさそうだし、他の地区にも自由に出入りできてる。ヤマトがZに出入りできるのはいいとして、ユウマも普通にヤマトの所に面会行ってたよね?

確かに色んな苦労があるのはセリフから伝わってくるんだけど、暮らしぶりの苦しさとかはどうしても伝わってこなかった。2時間の舞台でそれを示せってのは酷だとは思うんだけどね…。

規制へ反発する描写が多かったぶん、「意外と普通に暮らせているのでは?」と感じてしまった。

⑩締め

他にも色々書きたいことはあるけど、キリがいいのでこの辺で。

前情報をあんまり入れないように努力してたので、バンドの演奏シーンとダンスの多さに驚いたけど、どれも観ていて楽しかった。

演奏してダンス踊って演技して…と、見どころがたくさんあったので、途中「ん?」と思うところがあっても観劇中はそこまで気にならず、面白さの方を多めに感じることができたと思う。

それだけに、疑問点とか腑に落ちない点が結構あったのが気になってしまった。

これを余白と見るか、解釈の余地があると考えるか、単に脚本の穴と思うかは人それぞれでしょう。ただ個人的に気になったというだけで…。

そして解決策を何一つ提示してない時点で私はかなり卑怯なことをしてるとも思うけど、非難してるわけではないので許してほしい。

まさに「考えるな、感じろ!」って雰囲気の舞台なので、あんまり深く考えすぎずに楽しめばいいのかな。

で、観劇が終わったら「あれはこういう意味かな?」「このキャラ、実はこうだったんじゃない?」と誰かと情報を共有することで、その人ごとの『27 -7order-』が完成するのかもしれない。

最後になりますが、東京での公演、本当にお疲れ様でした!!!

大千秋楽まで怪我や病気をしないよう、心から祈っています。

舞台『この音とまれ!』 もはや観劇ではなく体験

 

※この記事は紹介目的ではなく超個人的な感想をダラダラと好きに書き綴るだけなので、ネタバレを避けたい方は閲覧されないことをおすすめします。

そしてあわよくば公演を観ていただけたらなあと思います。

 

 

 

こうして筆を執ってみたものの、一体どこから語るべきか見当もつかない。それほどまでに見どころづくしの名作だと、自信を持って人に話せる作品だと思う。

 

取っ掛かりを探して悩む時間がもったいないので、冒頭から順を追って感想を書いていこう。

 

まずは開幕一発目、武蔵先輩と愛。

箏曲部の先輩卒業というしっとりした場面と、サイレンと警察官の叱責が飛び交う緊迫したシーンが対照的で、これから何が始まるのかというワクワクがかなり掻き立てられる。

始まってすぐに違和感のない泣きの演技ができる古田さんも、「俺じゃ、ねえ」という一言のセリフに対してあまりにも多くを語っている財木さんの目の演技も素晴らしかった。

 

そしてオープニング。

初めて観た時は少し物足りなさを感じたが、歌詞がないシンプルな曲がラストの演奏をより印象的にしていることに終演後気がつき、より魅力的に目に映るようになった。

ミッツが何を食べてるのかが毎回密かな楽しみ。

 

変わって、冒頭の荒らされてる部室。

武蔵先輩の吹っ飛び方が毎回毎回ド派手すぎて、いつか舞台から転げ落ちるんじゃないかとヒヤヒヤしてしまう。

話が通じず力も及ばない相手に対する無力感と、打開できる方法が見出せないという閉塞感が最高に高まったところで繰り出される、すべてをぶっ壊す愛の軽やかな飛び蹴り!!!非常に気持ちがいい。

蹴りの形がすごく綺麗なうえに、跳躍力が回を増すごとにアップしてる気がする。必見。

普通こんなのが来たら怖くて一も二もなく入部許可出しちゃうと思うけど、怯えながらも毅然と断る武蔵先輩は偉い。

「俺のなにがわりいんだよ!」という言葉を受けた哲生の間が絶妙で、「存在が悪い」って返ってくるとわかってるのに毎回クスッとしてしまう。

 

汚された看板に怒り、書き置きを残して持ち去る場面。ここはぜひオペラグラスで見てもらいたい! 原作まんまの文面で感動した。

そこからちょっと飛んで、「信じられるわけないだろ…」のシーンは見てて本当に辛かった。それまで怒りに燃えていた愛の目がふっと暗さを帯びて、諦めの色が滲み出るという一連の移り変わりが流石としかいえない。財木さんは目の演技に長けていると以前から思っていたけど、本作ではそれがより顕著になっていると思う。

 

諦観の目の演技は、その後のシーンに生きてくる。武蔵先輩が襲撃され、疑いをかけられた愛を擁護すべく先輩が教頭に弁解しにいく場面。

それまでは冷えて頑なだった愛の目が、「久遠くんは箏曲部の一員です、部室にいて当たり前じゃないですか!」という一言でわずかにほどける。

一気に全部氷解しないところが非常にうまい。もしかしてこいつなら信じてみてもいいのでは……? ぐらいの匙加減、しかも目だけで表すという技ありの演技だった。

 

その後の「看板、ありがとね」あたりから始まる日替わりが、私の日替わりネタに対する概念を大きく変えた。

日替わりは日によって当たり外れや波があるものだと思ってきたのだが、古田さんを見て度肝を抜かれた。毎回バカみたいに面白いのだ。

『倉田武蔵』というキャラクター性を壊すことなく丁寧に一つ一つ積み上げ、繊細に作り上げたところを唐突にすべて突き崩すからこそ、あの面白さが出るのではないか。あまりにも急激すぎて、私は始め何が起こったのかわからなかった。

以降何度か劇場に足を運んだが、その後も古田さんは滑ることなく会場の笑いをドッカンドッカン掻っ攫っていった。恐るべし……。

ちなみに、ここの日替わりでは武蔵先輩が上腕二頭筋にチョモランマを作ろうとしたやつが個人的に好き。

 

すったもんだの末に愛の入部が決まった直後、ついに登場するさとわちゃん。脚の細さと髪のサラツヤ感は驚愕ものだった。特に液体のように肩から滑り落ちてゆく髪が本当に綺麗で、感動を覚えるほどだった。

猫かぶり時はああさとわ役の方だなあと思いながら見ていたのだが、素に切り替わった瞬間にさとわちゃんだ……! という実感が湧く。声のコントロールがすごく上手で、ひたむきで頑な、そして不安定な感じもすごくよく出ていたと思う。なんというか、成長の余地を感じさせるような演技だった。

 

さとわに叱責されていじける愛。ここがまた良くって……。哲生に「真剣に考えろよ!」と怒鳴る時の顔が、オブラートに包むと弟っぽい、ストレートに言えば甘ったれな表情をしていて、愛がいかに哲生を心の支えにしているのかが垣間見える芝居だった。おじいちゃんに向ける視線とはまた違った感じなんだけど、うまく言語化できなくて歯がゆい。やっぱり「甘え」が適切なんだろうか。

 

壊れた箏をこっそり直しに行く愛と、それを追う武蔵先輩。財木さんの走り方がザ・男子って感じでキュンとする。友達が多くて運動ができるクラスの男子ってあんな走り方だったよね……。

しらばっくれる哲生を問い詰める武蔵先輩、ここの日替わりもとても好き。「それなら僕にも考えがあるよ」と言って腹ばいになり、愛の行方を教えるまで絶対にここを動かんと宣言したネタがお気に入りです。

静音おばあちゃんにぶん殴られる愛の表情もとっても好き。情けなさMAXで心がときめく。あとタオル巻いてるのが似合い過ぎ。

 

そして待ちに待った3バカ登場シーン! それまで武蔵先輩が担っていた(?)笑いの要素をすべて持っていく勢いでドッカンドッカン……。雰囲気が一気に変わる場面。

ここも本当にすごくて、毎回毎回違うことをしてるし言ってる。しかもちゃんと面白いから一体どうやって考えてるのか不思議でしょうがない。間とリズムが軽妙で、この3人が出てくる時はだいたい客席で笑いが巻き起こってる気がする。

 

その後、部室で騒いでるのが教頭にバレてからの一連のシーンも非常にいい。啖呵を切る愛、条件を突きつけるさとわ、困惑する武蔵先輩、そして逃げる3バカ……。からの3人、特にサネ!  教頭に殴りかかろうとする演技が公演を重ねるほどに良くなっていて、抑えきれなかった怒りが噴出してしまった、という動作がたまらなかった。「こういう返し方も…アリじゃねえ?」が、表情とセリフの抑揚も相まって大変痺れた。

 

いよいよ始まる練習。スパルタでしごかれまくりながら必死でついて行く部員もさることながら、当たりが強いと自覚しつつもそれを辞めないさとわもすごい。これぐらいやらないと全校生徒を納得させられないと分かっていたとしても、人に厳しくするのって難しいよね。これも一種の愛だし、部員の表情も悲壮感はあっても嫌悪感が無かったので、きっとその気持ちは全員に伝わっていると思う。

そして疲労で横たわる愛の顔がまったく崩れないことに戦慄。流れる肉が付いていないのか、横になっても崩れない屈強な輪郭なのか……。

 

静音さんに練習させてくれと頼みに行く場面、掛け合いがこれまた面白い。しかしそれ以上におじいちゃんの演技が最高。加藤さんは声に不思議な響きがあって、これはものすごく失礼な表現かもしれないけど、故人としての説得力を強く感じさせる。

特に「孫が俺の箏を弾いたんだ!」の場面が良くて、まっすぐに箏と向き合っている愛の姿を生前に彼が見ていたらどんなに喜んでいたことか……という想像力が掻き立てられ、私はいつもここで決壊する。この二人を同時に舞台上に出すのは本当にずるい……。

少し後の、音が合わずに苦戦する場面。おじいちゃんを回想している愛の視線が優しく、寂しい。哀しさと慈愛を伴った目でおじいちゃんを見つめ、しかしそれは絶対に交わらないという現実が切なくて胸が張り裂けそうになる。この二人をつなぐものはもう箏しかないという事実は、果たして絶望なのか救いなのか。そんなことをつい考えさせられてしまう。

 

さとわが愛の過去を知り、それまでの自信に満ちた態度から一変、不安げに客席をさまようシーン。ここの迷子の子どもみたいな表情がたまらなく良い。

そして「泣いてんのか?」→ティッシュ→謝罪からの振り向きざまの笑み……!  これはどう考えても恋に落ちてしまうんですが、どうでしょうか。私は毎回新鮮な気持ちで落ちます。恋愛色がほとんど無い作品だからこそこのシーンが効いてきて、いつもまんまと胸を射抜かれてしまう。

 

さあついにやって来た発表当日! コータの緊張の仕方がいつも可愛くて癒されてしまう。

さとわの「絶対、大丈夫」も本当に心強くて……。しかも「今のあなた達なら」ってところが、より確信を抱かせてくれる増強剤になっている。血のにじむような努力をしてきた人間に太鼓判を押してもらうこと以上に、力になるものは無いと思う。

 

そしてこの舞台の目玉と言える演奏シーン……。冗談じゃなく、客席の人間は時瀬高校の生徒になれる。

弾き方にもそれぞれ個性があって、サネなんかは足でビートを刻みながらリズミカルに弾いていて驚いた。武蔵先輩はどことなくDJっぽく、愛・ミッツ・コータは堅実、さとわは家元だった。

愛の奏でるソロパートが原作通り「なんて優しい音なの……」って感じで、よくもまあ音色まで再現できたものだと感心するばかりだった。その場面で繰り出される演出もにくく、そこでおじいちゃんを出したら百発百中客は泣くってタイミングで出してくるところが本当にずるい……。

演奏後の鳴り止まない拍手、それを自分が送っているという事実がたまらない。手を打っていたあの瞬間、私は確かに時瀬高校の生徒だった。カテコ並みに手がジンジンして、演奏の素晴らしさを己の身で体感できるのも新感覚だ。

 

演奏を終え、静音さんに呼び出しを受ける愛。「演奏ダメだったのかなあ……」と落ち込んでいるが、客からしたらそんなわけあるか! と突っ込みたくなってしまう。

そこから箏を譲り受けることになるんですが、このシーンがまた格別で……。財木さんの泣きの演技がうますぎて、うっかり涙を誘われる。

箏と額を合わせる仕草、あれは確実におじいちゃんを抱きしめているか、抱きしめられているよなあと思って、いつも滂沱の涙を流してしまう。

 

ラスト、みんなで全国を目指す箏曲部。目指してくれ……絶対に続編が観たい……。

役者に負担がかかる作品だってことはわかっているんだけど、それでも先を観たいと思わせてくれる、本当に良い舞台だったと思う。続編が難しければせめて再演を……と願わずにはいられない。この素晴らしい作品をあと2公演しか観られないことが残念でならない。

 

 

4000字以上書いたものの、心に刺さったところや好きな要素を書き尽くすことはできなかった。そもそも全シーンが好きなのに、文字に起こそうというのはかなりの無謀だったのかもしれない。そして心のままに書いたので、文章も言葉遣いもしっちゃかめっちゃかになってしまった。

 

筆者が財木さんのファンだったために内容がかなり偏ってしまったが、いつか全員分を一人につき5000字以上費やして書いてみたいなあと思っている。気持ち悪いか……。

 

あと2公演、寂しくてしょうがない気持ちを抑えて、全力で目に焼き付けて来たいと思います!

『DIVE!! The STAGE!!』をとにかく観てほしい

舞台上から放たれる鮮烈な美しさに、こらえてもなお涙が滲んでしまう。

少年達の生き様、鍛え上げられた肉体、宙を舞う姿、そのすべてがきらめき、私たちには圧倒されることしか許されない。

 

『DIVE!! The STAGE!!』は本当に良い舞台だと思う。

とにかく一度でいいから観てほしい。

 

 

 

これはただの一ファンが感想をつらつら綴るだけのブログなので、あらすじはすっ飛ばして書いていく。

 

 

もう一度言うけど、本当に良い舞台だと思う。

 

衣装が水着、しかもブーメランパンツと聞いて一時は度肝を抜かれたが、舞台上に役者達が現れた瞬間、その動揺は一瞬にして霧散した。

 

とにかく、お世辞抜きで身体が綺麗なのである。

キービジュアルとは比較にならないくらいに鍛え上げられた渾身の肉体は、まるで彫刻を彷彿とさせるほどだ。

 

俳優陣がトレーニングをしていることは知っていたが、まさかあんなクオリティの仕上がりになっているとは夢にも思わなかった。

 

特に主要キャラを演じる納谷さん、牧島さん、財木さんの3名の身体は素晴らしく、これだけで充分にチケット代分の価値はあると思う。

 

ぜひ自らの目で確かめてほしい。

肉体の美しさに泣きそうになるという稀有な体験ができるから。

 

 

一発目から肉体の話をしてしまったが、それを凌駕するほどに役者達の演技がまた素晴らしかった。

 

元々原作は小説4巻分あったこともあり、キャラクターに深みを持たせる細やかな描写などは、正直かなり削られてしまっている。

 

知季はプリンのカラメルが食べられないことを嘆かないし、要一は胡蝶蘭を持って街を歩かないし、沖津に関しては描写が半分以下になったと言っても過言ではないだろう。

欲を言うなら『SHIBUKI LOVE』の置き手紙だけは残して欲しかった。

 

原作ファンとしては口惜しい気持ちを抱いてしまうのは否めないが、しかしそれを補って余りある演技力が役者達にはあった。

 

原作ではエピソードで語られていたキャラクター性を、視線の運びで、声の震えで、指先の揺らぎで語る役者陣のお陰で、描写の物足りなさは一切感じない。

 

そして、回を重ねるごとにその精度は日に日に高まってゆく。

 

納谷さんの演じる坂井知季は、初演の頃どこか作られた幼さがあったが、東京楽ではまさに等身大の中学生という他なかった。

 

背中が丸まりがちでどこか自信なさげに視線を彷徨わせていた序盤から、物語が進むにつれ徐々に前向きな表情と視線に移りゆく様子に、図らずも我が子を見守るような気持ちを抱いてしまいそうになる。

また、彼は身体能力が非常に高く、飛び込みのシーンの回転数が半端ではない。本当にびっくりするほど回っていて、惚れ惚れとするほどだった。

そしてラストシーンの彼のセリフと笑顔は、今思い出しただけでもうっかり涙が溢れてしまいそうになる。素晴らしい座長だった。

 

牧島さん演じる富士谷要一はどこまでも気高いプライドと高い技術を持ち、常にチームの先頭を走り皆を引っ張る存在だ。しかし、一見完璧に見える彼にもどこか脆く繊細な一面がある。その絶妙なバランスを、牧島さんは見事に表現していたと思う。

 

これはネタバレになってしまうかもしれないが、私は終盤での富士谷コーチとのシーンが大好きだ。

コーチとしての体裁をかなぐり捨て、父親としての想いを爆発させる富士谷コーチと、それを見つめて愛おしげに、そして不敵に微笑む要一の表情は涙を禁じ得ないほど素敵なので、とにかく劇場で観てほしい。あの視線に、表情に、『富士谷要一』という人物のすべてが詰まっていると思う。

 

そして、財木さん演じる沖津飛沫。

私は高校生の時に本作に出会ったが、その時からずっと沖津が好きだ。好きすぎて他のメディア展開されている作品に一切手がつけられないほど、思い入れのあるキャラクター。その彼が舞台化されると聞いて、期待よりもむしろ不安が上回った状態で劇場に足を運んだ。

 

その不安を瞬時に払拭してくれたのが、財木さんの高い演技力だった。

頭のてっぺんからつま先に至るまで、彼は完全に沖津だった。先ほど彼のエピソードが一番削られていると言ったが、削られた分を芝居の密度で補うような演技に、心を奪われっぱなしだった。

 

彼は前半、心がある呪いに捕らわれてしまっており、何をするにもずっと険のある表情をしている。それがとあるきっかけで解けると、顔つきがまったく変わるのである。どんな技術を使っているのか知らないが、前半と後半で顔が全然違うのだ。

そして、呪いが解けるとともにじわじわとほどけてゆく表情の変化は、まさに圧巻と言うほかない。

 

沖津飛沫という人物の核を捕らえた素晴らしい演技に、頭が下がるばかりだった。

 

チームメイトの芝居もすごくいい。

 

特に、杉江さん演じる大広陵にはかなり驚かされた。

スポーツものの作品には決して欠かしてはならない、持たざる者の苦しみの象徴、それが陵だ。実は原作を読んでいても彼にはあまり興味が湧かなかったのだが、まさかここまで目を奪うような芝居をされるとは思わなかった。

 

苦悩や嫉妬を知季にぶつけるシーンは毎公演ごとに表現が異なり、そして確実にグレードアップしていた。

気づけば陵のことをかなり好きになっていたのだが、これは偏に杉江さんの演技力のお陰だと思う。

 

逆に、高橋さんの丸山レイジは原作のイメージぴったり過ぎて、それはそれで困惑した。キャスティングした方は天才だと思う。

 

自分に特別な才能が無いことを受け入れる素振りをしつつも、内心では全然納得していなくて、様々な葛藤を抱えながら自分なりの道を見つけて前進する。

 

ちょっと捻くれてはいるものの、心が優しく実は無邪気な彼を、高橋さんは舞台上で体現していた。

最後の大会で自分のジンクスを投げ捨て飛んだ後に、知季とハイタッチをする彼の笑顔はとにかく最高だった。

 

 

ここまで来たらMDC全員に関する感想を語ってしまおう。

 

名塚さん演じる麻木夏陽子だが、彼女は本当にずーっと喋っている。特別功労賞を差し上げたいぐらいには、群を抜いてセリフ量が多い。しかしそのセリフをほとんど滞りなく放ち、ここぞ!という時には、「聴かせる」声色にわざとらしさのカケラもなく変化していた。

 

また、ピンポイントな好みかもしれないが、私は麻木コーチが場を立ち去る時に少し顔を残しつつ微笑む所が大好きだ。あの仕草と表情を見るために、何度オペラグラスを覗いたか知れない。

 

そして、唐橋さん演じる富士谷コーチ。

「自分はコーチとして息子を特別扱いするわけにはいかない」という姿勢でいながら、実は息子とどう接すればいいのか、どのように扱えばいいのかが分からないという苦悩を抱えたキャラクターだ。

 

要一のくだりでもう話したが、そのがんじがらめになった苦悩が、彼自身の爆発的な衝動で弾け飛ぶシーンは本当に良い。

この記事を書きながら思い出し泣きしそうである。必見だ。

 

 

ここまであれこれと書いてきたが、この分量では私が感じた魅力の1/3すら語ることができていない。こんなに悔しいことがあるだろうか。

 

観れば絶対に良い舞台だと分かる。しかし、まだ観たことのない人にあの感動をどう伝えればよいものか。

 

少しでも興味を持ってくださる人が、一人でもいいから増えてほしい。そんな邪な思いを抱えて、感想を書き連ねてきた。

 

あんなに素晴らしい演技をしてくれた役者達が、カーテンコールで客席を眺めほんの少しだけ顔を強張らせるところを、正直もう見たくはない。

 

公演に対する想いを語る場のはずが、宣伝の言葉でほとんど終わってしまう。そんな現状が、少しでも良い方向に向かってほしい。

 

ぜひ一度、公演に足を運んで見てください。少年達の一瞬のきらめきを、体感してみてください。

 

今日より明日、前向きな気持ちで生きられるようになりますよ。