のんべんだらり

渡る世間は推しばかり

舞台『この音とまれ!』 もはや観劇ではなく体験

 

※この記事は紹介目的ではなく超個人的な感想をダラダラと好きに書き綴るだけなので、ネタバレを避けたい方は閲覧されないことをおすすめします。

そしてあわよくば公演を観ていただけたらなあと思います。

 

 

 

こうして筆を執ってみたものの、一体どこから語るべきか見当もつかない。それほどまでに見どころづくしの名作だと、自信を持って人に話せる作品だと思う。

 

取っ掛かりを探して悩む時間がもったいないので、冒頭から順を追って感想を書いていこう。

 

まずは開幕一発目、武蔵先輩と愛。

箏曲部の先輩卒業というしっとりした場面と、サイレンと警察官の叱責が飛び交う緊迫したシーンが対照的で、これから何が始まるのかというワクワクがかなり掻き立てられる。

始まってすぐに違和感のない泣きの演技ができる古田さんも、「俺じゃ、ねえ」という一言のセリフに対してあまりにも多くを語っている財木さんの目の演技も素晴らしかった。

 

そしてオープニング。

初めて観た時は少し物足りなさを感じたが、歌詞がないシンプルな曲がラストの演奏をより印象的にしていることに終演後気がつき、より魅力的に目に映るようになった。

ミッツが何を食べてるのかが毎回密かな楽しみ。

 

変わって、冒頭の荒らされてる部室。

武蔵先輩の吹っ飛び方が毎回毎回ド派手すぎて、いつか舞台から転げ落ちるんじゃないかとヒヤヒヤしてしまう。

話が通じず力も及ばない相手に対する無力感と、打開できる方法が見出せないという閉塞感が最高に高まったところで繰り出される、すべてをぶっ壊す愛の軽やかな飛び蹴り!!!非常に気持ちがいい。

蹴りの形がすごく綺麗なうえに、跳躍力が回を増すごとにアップしてる気がする。必見。

普通こんなのが来たら怖くて一も二もなく入部許可出しちゃうと思うけど、怯えながらも毅然と断る武蔵先輩は偉い。

「俺のなにがわりいんだよ!」という言葉を受けた哲生の間が絶妙で、「存在が悪い」って返ってくるとわかってるのに毎回クスッとしてしまう。

 

汚された看板に怒り、書き置きを残して持ち去る場面。ここはぜひオペラグラスで見てもらいたい! 原作まんまの文面で感動した。

そこからちょっと飛んで、「信じられるわけないだろ…」のシーンは見てて本当に辛かった。それまで怒りに燃えていた愛の目がふっと暗さを帯びて、諦めの色が滲み出るという一連の移り変わりが流石としかいえない。財木さんは目の演技に長けていると以前から思っていたけど、本作ではそれがより顕著になっていると思う。

 

諦観の目の演技は、その後のシーンに生きてくる。武蔵先輩が襲撃され、疑いをかけられた愛を擁護すべく先輩が教頭に弁解しにいく場面。

それまでは冷えて頑なだった愛の目が、「久遠くんは箏曲部の一員です、部室にいて当たり前じゃないですか!」という一言でわずかにほどける。

一気に全部氷解しないところが非常にうまい。もしかしてこいつなら信じてみてもいいのでは……? ぐらいの匙加減、しかも目だけで表すという技ありの演技だった。

 

その後の「看板、ありがとね」あたりから始まる日替わりが、私の日替わりネタに対する概念を大きく変えた。

日替わりは日によって当たり外れや波があるものだと思ってきたのだが、古田さんを見て度肝を抜かれた。毎回バカみたいに面白いのだ。

『倉田武蔵』というキャラクター性を壊すことなく丁寧に一つ一つ積み上げ、繊細に作り上げたところを唐突にすべて突き崩すからこそ、あの面白さが出るのではないか。あまりにも急激すぎて、私は始め何が起こったのかわからなかった。

以降何度か劇場に足を運んだが、その後も古田さんは滑ることなく会場の笑いをドッカンドッカン掻っ攫っていった。恐るべし……。

ちなみに、ここの日替わりでは武蔵先輩が上腕二頭筋にチョモランマを作ろうとしたやつが個人的に好き。

 

すったもんだの末に愛の入部が決まった直後、ついに登場するさとわちゃん。脚の細さと髪のサラツヤ感は驚愕ものだった。特に液体のように肩から滑り落ちてゆく髪が本当に綺麗で、感動を覚えるほどだった。

猫かぶり時はああさとわ役の方だなあと思いながら見ていたのだが、素に切り替わった瞬間にさとわちゃんだ……! という実感が湧く。声のコントロールがすごく上手で、ひたむきで頑な、そして不安定な感じもすごくよく出ていたと思う。なんというか、成長の余地を感じさせるような演技だった。

 

さとわに叱責されていじける愛。ここがまた良くって……。哲生に「真剣に考えろよ!」と怒鳴る時の顔が、オブラートに包むと弟っぽい、ストレートに言えば甘ったれな表情をしていて、愛がいかに哲生を心の支えにしているのかが垣間見える芝居だった。おじいちゃんに向ける視線とはまた違った感じなんだけど、うまく言語化できなくて歯がゆい。やっぱり「甘え」が適切なんだろうか。

 

壊れた箏をこっそり直しに行く愛と、それを追う武蔵先輩。財木さんの走り方がザ・男子って感じでキュンとする。友達が多くて運動ができるクラスの男子ってあんな走り方だったよね……。

しらばっくれる哲生を問い詰める武蔵先輩、ここの日替わりもとても好き。「それなら僕にも考えがあるよ」と言って腹ばいになり、愛の行方を教えるまで絶対にここを動かんと宣言したネタがお気に入りです。

静音おばあちゃんにぶん殴られる愛の表情もとっても好き。情けなさMAXで心がときめく。あとタオル巻いてるのが似合い過ぎ。

 

そして待ちに待った3バカ登場シーン! それまで武蔵先輩が担っていた(?)笑いの要素をすべて持っていく勢いでドッカンドッカン……。雰囲気が一気に変わる場面。

ここも本当にすごくて、毎回毎回違うことをしてるし言ってる。しかもちゃんと面白いから一体どうやって考えてるのか不思議でしょうがない。間とリズムが軽妙で、この3人が出てくる時はだいたい客席で笑いが巻き起こってる気がする。

 

その後、部室で騒いでるのが教頭にバレてからの一連のシーンも非常にいい。啖呵を切る愛、条件を突きつけるさとわ、困惑する武蔵先輩、そして逃げる3バカ……。からの3人、特にサネ!  教頭に殴りかかろうとする演技が公演を重ねるほどに良くなっていて、抑えきれなかった怒りが噴出してしまった、という動作がたまらなかった。「こういう返し方も…アリじゃねえ?」が、表情とセリフの抑揚も相まって大変痺れた。

 

いよいよ始まる練習。スパルタでしごかれまくりながら必死でついて行く部員もさることながら、当たりが強いと自覚しつつもそれを辞めないさとわもすごい。これぐらいやらないと全校生徒を納得させられないと分かっていたとしても、人に厳しくするのって難しいよね。これも一種の愛だし、部員の表情も悲壮感はあっても嫌悪感が無かったので、きっとその気持ちは全員に伝わっていると思う。

そして疲労で横たわる愛の顔がまったく崩れないことに戦慄。流れる肉が付いていないのか、横になっても崩れない屈強な輪郭なのか……。

 

静音さんに練習させてくれと頼みに行く場面、掛け合いがこれまた面白い。しかしそれ以上におじいちゃんの演技が最高。加藤さんは声に不思議な響きがあって、これはものすごく失礼な表現かもしれないけど、故人としての説得力を強く感じさせる。

特に「孫が俺の箏を弾いたんだ!」の場面が良くて、まっすぐに箏と向き合っている愛の姿を生前に彼が見ていたらどんなに喜んでいたことか……という想像力が掻き立てられ、私はいつもここで決壊する。この二人を同時に舞台上に出すのは本当にずるい……。

少し後の、音が合わずに苦戦する場面。おじいちゃんを回想している愛の視線が優しく、寂しい。哀しさと慈愛を伴った目でおじいちゃんを見つめ、しかしそれは絶対に交わらないという現実が切なくて胸が張り裂けそうになる。この二人をつなぐものはもう箏しかないという事実は、果たして絶望なのか救いなのか。そんなことをつい考えさせられてしまう。

 

さとわが愛の過去を知り、それまでの自信に満ちた態度から一変、不安げに客席をさまようシーン。ここの迷子の子どもみたいな表情がたまらなく良い。

そして「泣いてんのか?」→ティッシュ→謝罪からの振り向きざまの笑み……!  これはどう考えても恋に落ちてしまうんですが、どうでしょうか。私は毎回新鮮な気持ちで落ちます。恋愛色がほとんど無い作品だからこそこのシーンが効いてきて、いつもまんまと胸を射抜かれてしまう。

 

さあついにやって来た発表当日! コータの緊張の仕方がいつも可愛くて癒されてしまう。

さとわの「絶対、大丈夫」も本当に心強くて……。しかも「今のあなた達なら」ってところが、より確信を抱かせてくれる増強剤になっている。血のにじむような努力をしてきた人間に太鼓判を押してもらうこと以上に、力になるものは無いと思う。

 

そしてこの舞台の目玉と言える演奏シーン……。冗談じゃなく、客席の人間は時瀬高校の生徒になれる。

弾き方にもそれぞれ個性があって、サネなんかは足でビートを刻みながらリズミカルに弾いていて驚いた。武蔵先輩はどことなくDJっぽく、愛・ミッツ・コータは堅実、さとわは家元だった。

愛の奏でるソロパートが原作通り「なんて優しい音なの……」って感じで、よくもまあ音色まで再現できたものだと感心するばかりだった。その場面で繰り出される演出もにくく、そこでおじいちゃんを出したら百発百中客は泣くってタイミングで出してくるところが本当にずるい……。

演奏後の鳴り止まない拍手、それを自分が送っているという事実がたまらない。手を打っていたあの瞬間、私は確かに時瀬高校の生徒だった。カテコ並みに手がジンジンして、演奏の素晴らしさを己の身で体感できるのも新感覚だ。

 

演奏を終え、静音さんに呼び出しを受ける愛。「演奏ダメだったのかなあ……」と落ち込んでいるが、客からしたらそんなわけあるか! と突っ込みたくなってしまう。

そこから箏を譲り受けることになるんですが、このシーンがまた格別で……。財木さんの泣きの演技がうますぎて、うっかり涙を誘われる。

箏と額を合わせる仕草、あれは確実におじいちゃんを抱きしめているか、抱きしめられているよなあと思って、いつも滂沱の涙を流してしまう。

 

ラスト、みんなで全国を目指す箏曲部。目指してくれ……絶対に続編が観たい……。

役者に負担がかかる作品だってことはわかっているんだけど、それでも先を観たいと思わせてくれる、本当に良い舞台だったと思う。続編が難しければせめて再演を……と願わずにはいられない。この素晴らしい作品をあと2公演しか観られないことが残念でならない。

 

 

4000字以上書いたものの、心に刺さったところや好きな要素を書き尽くすことはできなかった。そもそも全シーンが好きなのに、文字に起こそうというのはかなりの無謀だったのかもしれない。そして心のままに書いたので、文章も言葉遣いもしっちゃかめっちゃかになってしまった。

 

筆者が財木さんのファンだったために内容がかなり偏ってしまったが、いつか全員分を一人につき5000字以上費やして書いてみたいなあと思っている。気持ち悪いか……。

 

あと2公演、寂しくてしょうがない気持ちを抑えて、全力で目に焼き付けて来たいと思います!