のんべんだらり

渡る世間は推しばかり

『DIVE!! The STAGE!!』をとにかく観てほしい

舞台上から放たれる鮮烈な美しさに、こらえてもなお涙が滲んでしまう。

少年達の生き様、鍛え上げられた肉体、宙を舞う姿、そのすべてがきらめき、私たちには圧倒されることしか許されない。

 

『DIVE!! The STAGE!!』は本当に良い舞台だと思う。

とにかく一度でいいから観てほしい。

 

 

 

これはただの一ファンが感想をつらつら綴るだけのブログなので、あらすじはすっ飛ばして書いていく。

 

 

もう一度言うけど、本当に良い舞台だと思う。

 

衣装が水着、しかもブーメランパンツと聞いて一時は度肝を抜かれたが、舞台上に役者達が現れた瞬間、その動揺は一瞬にして霧散した。

 

とにかく、お世辞抜きで身体が綺麗なのである。

キービジュアルとは比較にならないくらいに鍛え上げられた渾身の肉体は、まるで彫刻を彷彿とさせるほどだ。

 

俳優陣がトレーニングをしていることは知っていたが、まさかあんなクオリティの仕上がりになっているとは夢にも思わなかった。

 

特に主要キャラを演じる納谷さん、牧島さん、財木さんの3名の身体は素晴らしく、これだけで充分にチケット代分の価値はあると思う。

 

ぜひ自らの目で確かめてほしい。

肉体の美しさに泣きそうになるという稀有な体験ができるから。

 

 

一発目から肉体の話をしてしまったが、それを凌駕するほどに役者達の演技がまた素晴らしかった。

 

元々原作は小説4巻分あったこともあり、キャラクターに深みを持たせる細やかな描写などは、正直かなり削られてしまっている。

 

知季はプリンのカラメルが食べられないことを嘆かないし、要一は胡蝶蘭を持って街を歩かないし、沖津に関しては描写が半分以下になったと言っても過言ではないだろう。

欲を言うなら『SHIBUKI LOVE』の置き手紙だけは残して欲しかった。

 

原作ファンとしては口惜しい気持ちを抱いてしまうのは否めないが、しかしそれを補って余りある演技力が役者達にはあった。

 

原作ではエピソードで語られていたキャラクター性を、視線の運びで、声の震えで、指先の揺らぎで語る役者陣のお陰で、描写の物足りなさは一切感じない。

 

そして、回を重ねるごとにその精度は日に日に高まってゆく。

 

納谷さんの演じる坂井知季は、初演の頃どこか作られた幼さがあったが、東京楽ではまさに等身大の中学生という他なかった。

 

背中が丸まりがちでどこか自信なさげに視線を彷徨わせていた序盤から、物語が進むにつれ徐々に前向きな表情と視線に移りゆく様子に、図らずも我が子を見守るような気持ちを抱いてしまいそうになる。

また、彼は身体能力が非常に高く、飛び込みのシーンの回転数が半端ではない。本当にびっくりするほど回っていて、惚れ惚れとするほどだった。

そしてラストシーンの彼のセリフと笑顔は、今思い出しただけでもうっかり涙が溢れてしまいそうになる。素晴らしい座長だった。

 

牧島さん演じる富士谷要一はどこまでも気高いプライドと高い技術を持ち、常にチームの先頭を走り皆を引っ張る存在だ。しかし、一見完璧に見える彼にもどこか脆く繊細な一面がある。その絶妙なバランスを、牧島さんは見事に表現していたと思う。

 

これはネタバレになってしまうかもしれないが、私は終盤での富士谷コーチとのシーンが大好きだ。

コーチとしての体裁をかなぐり捨て、父親としての想いを爆発させる富士谷コーチと、それを見つめて愛おしげに、そして不敵に微笑む要一の表情は涙を禁じ得ないほど素敵なので、とにかく劇場で観てほしい。あの視線に、表情に、『富士谷要一』という人物のすべてが詰まっていると思う。

 

そして、財木さん演じる沖津飛沫。

私は高校生の時に本作に出会ったが、その時からずっと沖津が好きだ。好きすぎて他のメディア展開されている作品に一切手がつけられないほど、思い入れのあるキャラクター。その彼が舞台化されると聞いて、期待よりもむしろ不安が上回った状態で劇場に足を運んだ。

 

その不安を瞬時に払拭してくれたのが、財木さんの高い演技力だった。

頭のてっぺんからつま先に至るまで、彼は完全に沖津だった。先ほど彼のエピソードが一番削られていると言ったが、削られた分を芝居の密度で補うような演技に、心を奪われっぱなしだった。

 

彼は前半、心がある呪いに捕らわれてしまっており、何をするにもずっと険のある表情をしている。それがとあるきっかけで解けると、顔つきがまったく変わるのである。どんな技術を使っているのか知らないが、前半と後半で顔が全然違うのだ。

そして、呪いが解けるとともにじわじわとほどけてゆく表情の変化は、まさに圧巻と言うほかない。

 

沖津飛沫という人物の核を捕らえた素晴らしい演技に、頭が下がるばかりだった。

 

チームメイトの芝居もすごくいい。

 

特に、杉江さん演じる大広陵にはかなり驚かされた。

スポーツものの作品には決して欠かしてはならない、持たざる者の苦しみの象徴、それが陵だ。実は原作を読んでいても彼にはあまり興味が湧かなかったのだが、まさかここまで目を奪うような芝居をされるとは思わなかった。

 

苦悩や嫉妬を知季にぶつけるシーンは毎公演ごとに表現が異なり、そして確実にグレードアップしていた。

気づけば陵のことをかなり好きになっていたのだが、これは偏に杉江さんの演技力のお陰だと思う。

 

逆に、高橋さんの丸山レイジは原作のイメージぴったり過ぎて、それはそれで困惑した。キャスティングした方は天才だと思う。

 

自分に特別な才能が無いことを受け入れる素振りをしつつも、内心では全然納得していなくて、様々な葛藤を抱えながら自分なりの道を見つけて前進する。

 

ちょっと捻くれてはいるものの、心が優しく実は無邪気な彼を、高橋さんは舞台上で体現していた。

最後の大会で自分のジンクスを投げ捨て飛んだ後に、知季とハイタッチをする彼の笑顔はとにかく最高だった。

 

 

ここまで来たらMDC全員に関する感想を語ってしまおう。

 

名塚さん演じる麻木夏陽子だが、彼女は本当にずーっと喋っている。特別功労賞を差し上げたいぐらいには、群を抜いてセリフ量が多い。しかしそのセリフをほとんど滞りなく放ち、ここぞ!という時には、「聴かせる」声色にわざとらしさのカケラもなく変化していた。

 

また、ピンポイントな好みかもしれないが、私は麻木コーチが場を立ち去る時に少し顔を残しつつ微笑む所が大好きだ。あの仕草と表情を見るために、何度オペラグラスを覗いたか知れない。

 

そして、唐橋さん演じる富士谷コーチ。

「自分はコーチとして息子を特別扱いするわけにはいかない」という姿勢でいながら、実は息子とどう接すればいいのか、どのように扱えばいいのかが分からないという苦悩を抱えたキャラクターだ。

 

要一のくだりでもう話したが、そのがんじがらめになった苦悩が、彼自身の爆発的な衝動で弾け飛ぶシーンは本当に良い。

この記事を書きながら思い出し泣きしそうである。必見だ。

 

 

ここまであれこれと書いてきたが、この分量では私が感じた魅力の1/3すら語ることができていない。こんなに悔しいことがあるだろうか。

 

観れば絶対に良い舞台だと分かる。しかし、まだ観たことのない人にあの感動をどう伝えればよいものか。

 

少しでも興味を持ってくださる人が、一人でもいいから増えてほしい。そんな邪な思いを抱えて、感想を書き連ねてきた。

 

あんなに素晴らしい演技をしてくれた役者達が、カーテンコールで客席を眺めほんの少しだけ顔を強張らせるところを、正直もう見たくはない。

 

公演に対する想いを語る場のはずが、宣伝の言葉でほとんど終わってしまう。そんな現状が、少しでも良い方向に向かってほしい。

 

ぜひ一度、公演に足を運んで見てください。少年達の一瞬のきらめきを、体感してみてください。

 

今日より明日、前向きな気持ちで生きられるようになりますよ。